映像作家団体SVP2(Spread Videoart Project2)の企画により、全国の映像作家18人が参加して制作された1作3分11秒の映像作品集。2011年11月クアラルンプール実験映画祭での初公開から、これまで国内外の映画祭、上映企画において多数上映されている。道内初上映となる今回は、オリジナル版にマレーシアの作家作品も加えたバージョンを上映する。またSVP2代表の佐藤博昭氏を迎え、作品集の詳細や各地での上映体験についてもトークでご紹介頂く。
「3.11」記憶されるべきことは何か?
「3.11」という数字は、2011年3月11日14時46分という特定の日時と共に、「それ以前と以後」を隔てる歴史的な記号として記憶されることになった。惨事を伝える夥しい映像は、すべての日本人を凍結させ、思考停止にしたといっていい。その時何が起こり、これから何が始まるのか? 多くの報道や無数のwebサイトが、あるいはカメラを手にした個人がその全体像を掴もうとした。地震と津波による直接の被災。原発事故による見えない恐怖。復興を阻む諸問題。世界各地への原子力行政問題の波及。我々は眼前の事態の巨大さに自失した。
見たくなかった情景や知りたくなかった事実が大きな波のように押し寄せた。これまでには公に言葉を発することもなかった市井の人々が、多くのメディアに現れた。今は、それぞれに主張したい言葉があるだろう。触れたくないことも、隠しておきたい事実もあるかもしれない。我々に今必要なのは、愛情や友情だけではない。純粋な心情や正直さだけでは動かない事態もある。想定外という言葉は流行語となり、充分に予測されたはずの膨大な喪失は、悲しみと怒りの連鎖を産んだ。その怒りや悲しみは一体どこに向かえばいいのだろうか? いや、誰かがペシミスティックに言うかもしれない。こんな国に何の希望も無いのだと。それもまた、日本人の素直な言葉である。
「映像」という言葉がこれまで以上にその意味を問われた。誰かが携帯電話機で撮影した粗い映像に誰もが息を飲んだ。多くの市民や映像作家たちが「その後」を捉えようとカメラを向けた。映像にはいったい何が出来るのだろうか?
「3.11プログラム」は素朴な動機で編まれた。われわれと同じようなインディペンデントな映像作家たちは、その時何を考えていたのだろうか? 彼らにとって「それ以前と以後」では何かが変わったのだろうか? という問いを彼らに発してみたかった。したがってこれらの作品は、何かの統一された意志や政治的主張に向かうものではない。それぞれの場で体験された「その時」が、それぞれの「その後」を伴って編まれた映像の集積である。(代表:佐藤博昭)
3.11プログラム参加者
佐藤博昭、服部かつゆき、田中廣太郎、中沢あき、中村明子、大江直也、瀧健太郎、河合政之、凡淡水、東英児、佐野洋介、重松 祐、黒崎陽平、石井陽之、大島慶太郎、佐竹真紀、足利広、島田さやか
*河合政之氏の作品は今回は事情により上映されません。
様々な文化圏で、巡回上映を続ける3.11プログラムの活動や今後の展開等について、"映像"の持つ可能性にも触れながらお話し頂きます。(聞き手:大島慶太郎)
佐藤博昭(さとう ひろあき)
教員ビデオ作家。ビデオアートの自主上映組織SVP2代表として、これまでに17回の自主上映イベントを行う。2009年には「日本・マレーシアビデオ交流展」を主催・運営しマレーシアのビデオ作家5名を招いた。また、各地で高校生の映像制作ワークショップなどを開催している。日本大学芸術学部、東京工芸大学芸術学部、武蔵大学社会学部、日本工学院専門学校、桑沢デザイン研究所非常勤講師。
SVP2(Spread Videoart Project 2)
1997年より活動を開始した、個人映像作家による自主運営団体です。当初はそれぞれが制作した映像作品の発表の場を作るべく、自主上映会の開催、レクチャープログラム、シンポジウムの企画・運営が主な活動でした。 その後、運営メンバーの交代を経て、2005年からは佐藤博昭、中沢あき、服部かつゆき、田中廣太郎の4人を中心として活動を行なっています。
主な活動内容は、自主上映会の開催、映像制作ワークショップの企画・運営、国内・海外作家との交流活動などです。また、メンバーは個々に、国内外の映像祭のリサーチや審査、映像祭での作品発表、テキストの執筆・編集、各種の映像制作などを行なっています。
SVP2としての活動の詳細、各メンバーについては下記HP、ブログをご参照下さい。
HP: http://svp2.com
blog: http://blog.svp2.com/